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遙か7 大和ルート感想~帰る場所、生きる意味

遙かなる時空の中で
地の朱雀・佐々木大和ルート

 

地の朱雀は私にとって常に鬼門である。

金髪……可愛い系……あんま興味ないな……適当なタイミングで攻略しないと飽きそう……と思っていると、地の底に突き落とされるからだ。

 

地の朱雀というと、少し特殊な生い立ちや立場であることが多く、シナリオもよりパーソナルな部分に重きを置かれる傾向が強いように思う。

たとえば1の詩紋は、現代ではクオーターであるがために苛められ、異世界でもその容姿からたびたび鬼と間違われるという困難に遭遇する。

2の彰紋も、東宮という立場でありながら、髪の色素が薄いというだけでいらぬ反感を買ってしまう。

「外見」という自分には何の落ち度もないことで、周囲から差別され、冷たく当たられることで浮いてしまう。その結果孤立し、苦しむことになる。

その苦しみは、敵である鬼の一族たちが抱える苦しみと通じる。鬼の一族たちが受けた迫害の有り様を現代人である主人公が垣間見ることのできる、重要な役割である。

鬼のことだけではない。龍神の神子が降臨する異世界には常に、庶民とか武家とか公家とか、さまざまな立場の人たちの、さまざまな考え方が渦巻いている。その結果として、小さな諍いから大きな戦まで、色々な対立が発生する。

時として、対立から生まれた「欲望」が、人間あるいは鬼と呼ばれる異形の者たちに、人知を超えた力を求めさせる。

この、1の頃から脈々と描かれてきた異世界の京での出来事は、現代社会にも――我々のごく身近な、体験談に近いものとして存在している。

たかが疑似恋愛するためのゲームで、ここまで「差別」とか「迫害」なんてデリケートな題材をずっと飽きることなく扱わなくても良いだろうに、ずっと、ずっと、ずーーーーっとルビーパーティーは持ち出してくる。そしてとても丁寧に扱う。

キャラクターが成長する物語を作るなら、まあ、いじめられていた過去があってそこから立ち直るというのは定番のエピソードではあると思う。

でも「遙か」にとっての「差別」とか「迫害」「いじめ」は敵である「鬼」や「怨霊」という、このシリーズの根っこであり核となっている要素がもつネガティブな側面、もしくは「正体」をより鮮明に浮かび上がらせるために取り入れられている、とても重要なテーマなのだ。とても繊細かつ丁寧な形で。

プレイヤーである龍神の神子に、それらの問題点についての強烈な輪郭を持たせるのが、時として八葉の役割となる。

今作7ではその役割を、大和と宗矩が担っていると感じた。

 

龍脈が乱れ、世界が乱れ、怨霊がはびこり、人々が困窮する。世界が滅亡へと向かうとき、龍神の神子が降臨する。

それら全てが「ファンタジーな要素」と言ってしまえばそれまでだが、なんだか最近の世界を見ていると、龍神の神子がとうとう降臨するのか……と空想してしまう。

7の文脈が1と2に近いためそれらの話ばかりしてしまうのだが、例えば鬼の存在が希薄になった3では地の朱雀・弁慶が平清盛黒龍らと深くかかわりを持ってくる。

 

何が言いたいかというと、地の朱雀って可愛い顔して闇を浮かび上がらせる重要な存在だよね、ということだ。話が長くなった。

 

さて、今回の佐々木大和ルートだが、今のところ一番泣いた。

大和の生い立ちは、現代を生きる高校生にとってはなかなか辛いものだ。

怨霊が見えてしまう体質のせいで周りから疎まれ、唯一の肉親である父親とも折り合いがつかず、すっかり孤独に生きる術を身につけてしまった大和少年。

そんな大和に手を差しのべたのが主人公の七緒である。

七緒は怨霊が見える両親と兄の五月に囲まれて育ったため、大和のことを何とも思わない。

兄の五月は地の青龍。

この図式は、なんだか1の主人公・あかねと地の青龍・天真が、後輩でいじめられっ子だった詩紋と仲良くしていたことに通じる。そういえば天真も留年してたな

だがそれで立ち直ることができるわけではない。大和の心に根差した闇は深い。

何事も無気力で、暇をつぶすために色々手を出してはみるが長続きしない。七緒たち以外の友達も作らず、ひとりで孤立することも厭わない。

自分の家に帰れば、大和のことを不気味がる父親が無言でリビングに座っている。

そんな大和が、異世界で見つけたのは剣術と自分のことを全く気味悪がることのない仲間たち。

大和はわりと最初の頃から、異世界のほうが居心地が良いなんていうことを口走る。

まあ、大好きな七緒もいるし。現代に固執している様子が全くないのだ。

しかも刀に関しては、異世界に来て初めて手にしたにも関わらずそこらへんの武士よりよっぽど腕が立つ。

刀を持つのが楽しくてしかたがない大和は、なんやかんや言いながらも武蔵の手合わせに付き合ったり、出先では阿国ちゃんの舞を楽しんだり、すっかり異世界の暮らしに馴染んでいく。

だがある日、皆がいる邸で稽古していると、突然大和の身体から瘴気が湧き上がり、刀を持ったまま自我を失い暴走してしまう。あと一歩で周囲を傷つけていたかもしれない大和は、五月からの提言で刀を持つことを禁じられてしまう。

他の七人でも十分に七緒を守っていられるし、封印もできる。そして、誰もそんな状況に陥ってしまった大和のことを責めない。

なんだ、俺がいなくてもいいじゃん、と呟く大和は寂しそうだ。ふりだしに戻ったような感覚なんだろう。

鬼の女・ターラが強襲を仕掛けてきたときも、戦いは他の八葉に任せるしかない。

だがそれは全て大和を狙ったターラの策略で、大和は追い込まれた先――洞窟の奥にぽつんと祀られていた祠の、ご神体らしき刀を手にする。

その刀は身体によくなじみ、力がみなぎる。大和はすっかりその刀を気に入るが、ある異変が起こる。それは神子と他の八葉たちが、謎の倦怠感に悩まされ、養生しても怨霊を浄化しても一向に改善されないという現象だ。

八葉たちはたちまち、誰も彼も歩くことも億劫になるほど疲弊していく。それなのに、大和は何も感じない。

その原因は、大和が手にした刀――周囲の人間の生命力を吸い取る、いわくつきの妖刀だった。扱える人間はごく限られており、刀が持つ闇と共鳴した者にしか手にすることすら許されない。

ようやく八葉として戦うことができるようになったと思っていたのに、今度は自分が周囲を苦しませていた。

そんなこと、今度こそ皆が許してくれるわけもない。

そう考えた大和は七緒と八葉たちの元を去る決意をする。

もう、こんなひどいことしなくても良いじゃん……と私は打ちのめされた。

ネガティブに考えてしまう大和の気持ちも、そんなこと関係ないと言える八葉の気持ちも分かる。一緒に戦った仲間じゃん!と思う一方、仲間を傷つけてしまい落ち込む大和にも共感する。つらい。ひどい。あんまりだ。

 

大和は終始、人間関係において臆病だ。それは大和の生い立ちが起因しているのだろう。

でも、人の輪に飛び込むこと自体から逃げていた現代での大和に比べたら、七緒や八葉たちと一緒にいたいと願い、自分がどう思われるか・皆がどう感じるかと悩む姿は、彼が成長した証でもある。

そこにそっと救いの手を差し伸べたのは、やはり七緒だった。五月もいる。今度は他に八葉たちもいて、きっとつばきやあやめたちも大和のことを思っている。

大和の活躍によって刀の妖力が収まり、八葉たちが待つ邸へ戻ろうとするも、なかなか門をくぐれない大和。七緒に強引に手を引かれ、再会を果たす。頭を下げ詫びる大和を快く向かい入れた八葉に、何で怒らないんだ?と呆気にとられる大和。もう!当然じゃん!

でもその一歩を踏み出すのってすっごく大変なことだ。苦しくてしかたない。自分で考えてるのはまだ大丈夫だけど、面と向かって拒絶されたら今度こそ立ち直れない――と思い込んでしまう。

私も、子供のときも社会人になってからも何度も経験した。でも、意外と周りの人たちって自分が思っていたより怒っていなかったりする。嫌味を言われても一瞬で終わったりする。

想像ばかりが悪い方向へ傾きすぎていて、冷静に周囲を見ることができなくなってしまう。自分のせいだと思い込んで、視野が狭くなって、ふさぎ込んでしまう。ここで逃げてしまったら、モヤモヤしたまま終わってしまう。

大和の苦しさが理解できすぎて、八葉たちとのやりとりが暖かすぎて、私はボロボロに泣いてしまった。

なんでこんな、最後でもないシーンであんなに泣いたのかはわからない。でもめちゃくちゃ泣いた。情緒不安定にもほどがある。でもすっごい泣ける。

対である宮本武蔵はまっすぐで、人を疑うことなど知らない。彼の存在は大きく、七緒にも五月にもできない「対等な友人でライバル」という立場から大和のやる気に火を付けたのだと思う。四神コンビの互いに補い合う関係だ~~~好きポイント500000点!

武蔵ルートと大和ルートの目指す場所はとても似ていて、なぜ剣を握るのか・強くなるのかという理由と、自らの生きる道を見つけることが課題となる。

大和は自分と向き合い、仲間と向き合い、居たいと思える場所を見つけた。そして、今まで逃げてきた父親としっかり話し合うことで、父親と、現代の世界と決別する。

かっこいい男だ。父親も息子に無断で子持ちの女性と再婚するから家出てけ~とか言い出すトンデモ毒親だったが、最後には大和としっかり向き合った。

大和は自分が暮らしやすい世界で、貫きたいと思うものに出会い、のびのびと生きていくことを決意した。

そんな大和の帰る場所は七緒だ。七緒が現代に帰ってしまったとしても、大和の帰る場所で心の拠り所は七緒なのだ。

七緒も残留する結末がもちろん正規エンドなのだが、帰る選択肢を選ぶ結末もなかなか良かった。

現代へ帰る七緒を想い、最後まで好きとは言わない大和。ずるい、ずるすぎる。

正規エンドの修行の道中で八葉と遭遇するたびいちいち手紙を書いて寄越す大和もかわいい。仲間大好きじゃん!本当によかったね!

 

あっ、あとこのルートのラスボスとなるターラと、協力者になったカピタンが知らないところで恋仲になっていたというオチも素敵だったな。

宗矩ルートの浄化されるターラも泣けたが、ちょっとコミカルですらあるこの終わり方。痴話喧嘩に巻き込まれただけかよ!とひっくり返りそうになる一方で、なんだかターラとカピタンがとても幸せそうにしているのを見ていたら、めでたしめでたし……と言いたくなってしまう。

これはこれで、ターラにとって救いになったのだろうな。でも宗矩ルートを終えた後でよかった。アレを知らなかったらちょっとあんまりじゃない?!と思っていたかもしれない。

 

大和の成長を見守った先祖のような気持ちになった。これからの大和と七緒の人生が、明るく楽しいものになりますようにと願わずにいられない。