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今になって振り返る 遙か2

遙かなる時空の中で」とは、コーエーテクモゲームスが25年前から展開している女性向け恋愛ゲーム「ネオロマンス」シリーズの2作目である。

「遙か」シリーズとしては、ナンバリングタイトルが7つ。それに加え追加ディスクや派生作品が発売された。

ネオロマンス1作目の「アンジェリーク」が西洋風ファンタジーな世界だとざっくり説明するなら「遙か」は和風モチーフのファンタジー作品。

ある一定の年齢層ならば「はるとき」と言えばなんとなく分かるのではないだろうか。私の周りはそうである。男性でもゲーマーなら薄ぼんやりと知っているイメージだ。

 

基本的にどの作品も、現代日本で普通に生活している女子高校生のヒロインが、平安時代や幕末といった昔の日本によく似た「異世界」へ迷い込み、救世主的存在である「龍神の神子」に選ばれる。

異世界」では大体、天変地異や戦が起きていて、世界は危機に瀕している。

そして、神子を守り仕える存在の「八葉」と呼ばれる8人の男性と出会い、彼らと協力し、たまに恋もしつつ世界を救う――という筋である。

少女漫画の「彼方から」「ふしぎ遊戯」やテレビアニメ「天空のエスカフローネ」と雰囲気が似ている。例えが古い。

「遙か」の舞台となるのは文化や政治、人物、地理・地名も似ているが、あくまで別の時空、過去の日本のようなどこかであり「龍神の神子」は世界が危機に直面すると、世界を司っている龍神によって選定される。龍神=世界の状況なので龍神はだいたいいつも弱っている。

神子が選ばれると、神子を守る存在であり、なによりメインの攻略対象である「八葉」も選ばれる。

「八葉」は四神――青龍・朱雀・白虎・玄武――に分かれており、さらに「天」と「地」2つの役割がある。キャラクター紹介および作中では「天の青龍」や「地の朱雀」などと呼ばれる。

4×2で8人。八葉だ。これが7作品分存在するが、各ゲーム内で別の時代の神子の存在もほのめかされるので何人存在するのかは不明である。

さらに八葉それぞれに八卦が紐づけられ、その特性によって戦闘で使用できる技に「風」や「雷」といった自然事象が由来されたり、性格や立場が歴代八葉でなんとなく似通っている……など説明し始めたらキリがない。

これらは作中にあまり登場しないものの、ひっそりかつ確かに受け継がれている設定である。そして20年もの間「遙か」が愛されている要因のひとつだとも思っている。遙かはそういう設定がとても丁寧で細かい。

もうひとつ。「遙か」には、ナンバリングが変わって物語とキャラクターが一新しても、声優が続投されるという特徴がある。八葉だけではなくヒロインや主要となるサブキャラクターも共通している。これも1~4と5以降でキャスト総入れ替えがあったが、世界観や神子と八葉たちのあり方の根底は変わらないと感じている。

恋愛アドベンチャーというゲームジャンルで、戦闘やミニゲーム、恋愛以外にこなさなくてはならないイベントが多く、一般的な「乙女ゲー」と比べると圧倒的にテキスト量が多くプレイ時間も長い。だがノベルゲームのように地の文を読んでいくことは少なく、会話主体で物語が進んでいくので苦痛は少ないうえ、とても分かりやすい。

 

さて、現在は最新作であるナンバリングタイトル「7」が発売されたばかりだ。少々遅れてだが、プレイ中である。推しはまだ決まっていない。

そんな遙かシリーズの記念すべき1作目が発売されたのは2000年――20年前である。

私が「遙か」に出会ったのは20年前ではなく、もう少し後。

ちょうど「3」が発売され、界隈が賑わいを見せていた時期だった。

当時はまだブログと個人サイトが主流の時代だったが、Twitterがあったらさぞ盛り上がっていただろうと思う。

水野十子先生の描く美麗なキャラクターイラストも、源平合戦をモチーフにした華やかで力強い世界観も魅力的で、どうにも気になった私はまず「3」のゲームをプレイし、派生作品の「十六夜記」「運命の迷宮」…と順当にどっぷりとハマっていった。

 

色々な遙かシリーズに触れた私だが、特に思い入れが強いのが「2」である。

一番好きなゲームを選べと言われたら迷わず「遙か2」というだろう。

私は「遙かなる時空の中で2」が大好きだ。ちなみに推しは地の青龍・平勝真。最高にかっこいい。早く私と結婚してくれ。

2は第1作目(以下「1」と呼ぶ)の翌年に発売された、その名の通り遙かシリーズの2作目だ。

1の100年後(1~3はそれぞれ100年間隔である)という設定で、再び京が危機に晒され、新たな龍神の神子が選ばれる。

史実でいうと1が平安中期の「摂関政治期」で、2が平安後期の「院政期」の日本を題材にしている。

双方のキャラクターを見るとわかるが1と2は良く似ている。(3も似ているがあちらは史実の人物が含まれているので割愛)

どちらの舞台も史実の平安時代によく似た「京」で、八葉の性格や身分・出自などの設定も似通った部分が多い。名前も似ているので、意図的に寄せていることは明白だ。

だが、大きく違うところがある。

1が誰もが思う平安時代源氏物語的(ドロドロしているという意味ではない)な世界できらびやかな「京」なら、2は退廃的で荒廃した「京」が広がっている。

1はまさに平安絵巻のような、鮮やかな美しさがある。平安時代の雅(みやび)な雰囲気。貝合わせや蹴鞠をして遊ぶ貴族たちのイメージ。ゆったりと時間が流れ、花鳥風月を愛でている。(神子は肉体労働なので雅さはたまにしか感じられない)

それに対して2は、徹底的に人間の負の部分が描かれている。1にあったようなキラキラをほとんど感じられない。

作中の季節が、1は春~夏が舞台で、2は秋~冬なのも対照的だ。

儚くも華々しく未来を感じさせる「桜」がモチーフだった1に対して、2はこれから枯れて落葉していく真っ赤な「紅葉」がモチーフとなっている。

作中で季節が進むと背景グラフィックが変わり、降りしきる雪のイメージも強烈だ。毎回、大雪なのにノースリーブを着て一緒に山へ登ってくれる推しのことがどうしても心配になってしまう。

1でも京は危機に晒されているし、世界を救うことが神子と八葉の目的である。3以降も基本はみな同じである。

だが、2は基本的に登場人物たちがみな諦めているのだ。

悲しみや怒りもあるのだが、誰もが根底に「諦め」を抱いて生きている。

八葉もみな立場は違えど何かしらの事情を抱えており、やはりそこには世相と同じく「諦め」が根付いていることを感じさせる。こういったゲームで必ずいる「元気キャラ」もいるにはいるのだが、底抜けに前向きで明るいわけではない。

源平合戦をモチーフにした「3」や戦国時代の「7」のように大きな戦が起こるわけではない。2の世界はただ静かに破滅へ向かっていく。

貴族たちはこぞって出家し今浄土を願う。一方で町中は疫病の流行や飢饉、火災などがあり、とにかく重苦しく荒んでいる。

末法思想という、人々の心のよりどころであった仏教が廃れ、この世も終わりだ~!せめて浄土へ行かせてくれ~!みたいな感情が貴族にも平民にも重たく広がっているのだ。

こういった暗さと重量感は遙かシリーズのなかでも2独特のものだ。ほの暗く、しかし平安時代らしい美しく儚い感性が随所に散りばめられている。

その世界観に「紅葉」と「雪」がよく似合う。

冷たい風、血のように赤い紅葉。歩くたびにかさかさと音を立てる枯れ葉――物語が後半へ差し掛かると、季節は進み雪が降る。恋愛イベントが進んでいて、しんとした冷たい世界にもわずかな温かさと切なさが感じられるようになる。

降りしきる雪は冷たいが、真っ白で美しく、儚い。そして雪が解ければ春が来るというわずかな希望も感じさせる。

日本らしい、季節の移ろいを感じさせる絶妙な演出がたまらなく効いている。

全ての遙かシリーズに共通しているが、特に1と2は自然の描写が繊細で豊かだ。

時代背景や作風もあるのだろうが、口説き文句が百人一首みたいだ……と初プレイ当時の歴史にはあまり興味がなかった私は思った。

――実際は限りなく現代の話し言葉に近いごく普通の口調だが、きちんと時代考証がなされており、読み方やその時代には存在しなかった用語などは極力使われていない。決してすゑひ〇がりずみたいなことはない。

 

そして、2は八葉の心を掴むことが、シリーズ7作品の中でも最も重要かつ過酷である。

1は最初から八葉が揃っており、決定的な対立はない。仲は良くないが。

また、3以降は八葉集め云々よりメインのストーリー展開に重きが置かれるので趣旨が異なる。

だが2は八葉が揃っていないうえ「院」と「帝」の派閥に分断されている。

特に同じ四神の中で因縁や対立が根付いており、なかなか協力しあえない日が続く。突然理不尽な喧嘩が始まったりもする。

八葉が揃わなければ神子を守ることも、神子が本来の力も発揮することもできない。

本来神子に従い、神子を守護する力を持つ八葉が揃っていない状態から探し出し、仲間になってもらうよう説得しなくてはならないのだ。(選択肢で1人だけ異世界に飛ばされた際に出会う人を選べるがその人も決して優しくはない)

しかも1や3などには存在する「異世界へ同行してくる現代での知人」がいない。

1では仲の良い同級生と後輩。3では幼馴染……というように、最初から主人公の身内で味方、というキャラクターがいないのだ。

八葉全員、主人公の境遇に理解がない。龍神の神子なんて存在するわけがない。信用できない、協力できないというスタンスから物語が始まるのだ。

味方は神子のサポートキャラである星の一族の紫(ゆかり)姫だけという始末だ。紫の双子の兄である紫苑(みその)は神子を疑いまくってくる。

おまけに「院」側にはすでに認められた龍神の神子が存在しているため、全くありがたがられない。ひどい話だ。

最序盤で「院(天)」につくか「帝(地)」につくか(誰と最初に会うか)の選択があり、まずは自らがついたほうの八葉たちを掌握もとい彼らからの信頼を獲得していく。

なのでその間は反対勢力を支持する八葉とは、恋愛イベントこそ存在するが余計にそっけない扱いを受ける。ちなみに同じ勢力につくか、反対勢力かで恋愛イベントもごっそり変わる。

そして同じ勢力の八葉達からの信頼をある程度得ることができたら、次は反対勢力の八葉を仲間にしていく。そして神子としての力を高めるため、同じ四神に属する八葉同士の絆も結んでいかなくてはならない。

前述したように同じ四神の八葉同士は特にお互い嫌っていたり苦手に思っていたりする関係で、そこをある程度の和解に導かなくてはならない。半分は立派な大人なんだからもうちょっと自分らで歩み寄ってくれとも思うが、そういうところも楽しい。

このちまちまとした作業があるからこそ、八葉たちに愛着が湧く。仲良くなって良かったね……という有難みが湧いてくる。神子と認められる道程も長いぶん達成感が強い。信頼を築くって大変なんだなと教えてくれる、かもしれない。

いやでもすぐ信頼されるんでしょ?と思うとそうでもない。それぞれ八葉になるまでに1章分を費やすので、そこそこ長い。

神子たる器と力を示すまでは、キャラクターによってはものすごく嫌そうに扱われる。そんなに嫌がらなくてもいいじゃん……と思う……本当に……

そんな逆境のなか、毎日八葉の中からお供を2人決めて京を歩き回りミッションをこなしつつ恋愛イベントを進めていく。

町中を歩き回るだけでなく、それぞれが好きな紙と季節の花を選んで文を送ったり、好きな香を焚いたり、風流な要素もある。

だが次第に物語を進めるにつれ、逢引きに誘ってくれたり、好きな場所へ連れて行ってくれたり、過去のトラウマを打ち明けてくれたり、出自が明らかになったりするようになる。

そこからが遙か2の醍醐味である。

遙か2は序盤の辛辣さが嘘みたいに終盤の恋愛イベントが甘い。歴代の中でもかなり甘いのではなかろうか。

そしてキャラソンの歌詞が大人っぽい。いや、生まれたての心はまだしも生まれたての身体って!先代の地の青龍はもっとガキ臭かったのに!影山ヒ〇ノブのシャウトが気になる!

八葉の年齢が1のときより全体的に上がっているせいもあるのだろうが、なんだお前らどうしたというくらい甘いというか大人っぽい。いや……キャラソンのイメージが強すぎるだけかもしれないが……水蜜桃の雫絵……

メインストーリーの重苦しさはあるが、恋愛イベントは可愛らしいものからドキっとするものまでバリエーション豊かである。でもトラウマとか悩みとかはちょっと重い。そんな彼らが神子と出会って少しづつ自分と向き合ったり、過去と向き合ったりして成長していく。

最後の決戦の日の朝は、恋愛イベントを全て成功させた八葉が神子の部屋を訪ねてきて挨拶をしてくれる。その中からお目当てを選択し、全てが終わるとめでたくエンディングとなる。

だが恋愛イベントは同時進行が可能なので、何人も挨拶に来ることがある。廊下でソワソワしながら待っているのだろうか……あっ、あいつも……みたいな気まずい空気になっているのだろうか……といらぬ心配をしてしまう。


そんなふうに愛の告白をしてくれる八葉たちもとても魅力的だ。

1と比較されがちだった経緯があり、また暗い世界観と相まって地味に思われがちな2なのだが、登場人物は曲者が揃っていると思う。

みな年齢が1より上がっていると共に考えが達観している人物が多いため、全体的に落ち着いていて大人っぽい印象を受ける。

髪型にあまり癖がなく、さっぱりしているところが個人的にキャラデザで気に入っているポイントだ。

詳細は割愛するが、私の推しの勝真はめんどくさいけど、とんでもなくかっこいい男である。あ~結婚してくれ~。

八葉以外にも、もうひとりの神子である千歳や、敵である鬼の一族たちその他もろもろ、みんなとても魅力的で面白いキャラクターが揃っている。

敵味方関係なくみ~んな好き!


そんな、ちょっと面倒なゲームシステムとシナリオとキャラクターの遙か2を、私は未だに推してしまう。

最初に発売されたPS2版と、移植版のPSPでしかプレイできないことが悔やまれる。おすすめしようにも、既にPSPすら……なので……

switchでDLプレイできるようにならないかなぁと7を進めながら、どうにも2が恋しくなってしまい、こんなブログを書いた次第である。